誰しも人生で一度は「ちょっと気になる異性」に出会う事だろう。それは思い出で終わる、あるいは思い出にもならずに忘れ去られる場合もあれば、ずっと心のしこりとして残る場合もある。今回は後者の心のしこりになった話をしたい。
彼女とは軽音サークルの集会で出会った。私の顔見知りと喋っているのを見かけたので、顔見知りに声をかけるついでに勢いで話しかけ、そこからすぐ打ち解け連絡先も交換した。その後インスタのDMで喋ったり友人たちも交えて飲みに行ったりする事でお互いを知っていった。高校の頃はギター部の部長をやっていたとか、歯医者のバイトをやってるとか、色んな話を聞いたのが懐かしい。
色々やりとりしていく内に、段々私は彼女のことが気になるようになってきた。その頃の私は恋人も出来たことのないような童貞だったので、「頭が良い」とか「面白い」とかベタ褒めされたり、すれ違った時笑顔で手を振られるだけでその気になってしまっていたのだ。
しかしそんなことを思っても仕方がなかった。何故なら彼女には恋人がいたからである。
私と出会ってから程なくして彼女は恋人を作っていた。よくインスタを上げるタイプだったので彼氏の顔は何度も見たことがあったが、彼が実際どういう人なのかとか人となりを知ることは最後までなかった。
だから「この子には彼氏がいるから」と自分に言い聞かせ余り入れ込まないようにしつつ、内心ずっとドキドキしていた。ちなみに彼氏が出来ても私とのDMは変わらず続いていた。正直彼氏がいるのにいいのかなって思っていたが、まあその辺りは厳しくないカップルだったのだろう。多分。
彼女と最後に会ったのはサークルでのライブの時だった。成り行きで彼女含めた友達みんなとバンドを組むことになったが、スケジュールが合わず当日までバンド練をせずに本番に臨むことになった。当日直前くらいは全員揃いそうだったのだが、生憎私はハワイで旅行中だった為それも叶わなかった。
当日、一人でライブハウスに向かう私のもとに彼女がダッシュで駆け寄って来たのを鮮烈に覚えている。ここでも「彼氏がいるから」という理性に反して私はドキドキしてしまった。相変わらず彼女は私のことをベタ褒めしていたし、私のおふざけは全部笑ってくれた。それに対して私もずっとヘラヘラしていることしかできなかった気がする。
演奏の方は出番直前の練習だけにしては案外上手く行った。演奏も結構褒められたが、私はそれよりボーカルだった彼女の歌声に心のどこかで惹かれていた。演奏する時は周りの音も聴きながら弾くものだが、演奏中に他人の演奏に惹かれる経験は初めてだったし、最後でもあった。
演奏が終わった後に彼女とハイタッチをし、それからすぐに私は家に帰った。帰る時に、私は待ち時間に彼女とサークルを辞めるかどうかの話をしていたことについて考えていた。入っていた軽音サークルでは学年が上がるごとにライブ等で払うお金も増えることになっており、金がかかりすぎるのが嫌だからという理由で彼女は辞めるか検討していた。私もそれには同感していたが、彼女を含め周りから「お前はサークルの中心なのに辞めてどうするんだ」と言われてしまった。しかし結局彼女とDMで相談し合った結果お互い程なくしてサークルを辞めることになった。
その後私はサークルとは全然関係ない女の子と付き合い、あの頃のことは忘れて恋愛に没頭し、その頃にはDMも途絶えていった。
恋人とは1年くらい付き合っていたがいろいろな事情で別れ、心の奥底にしまっていた思い出がまたぶり返してしまった。それからまた彼女とのDMが久々に再開された。久々に連絡を取るとあの頃あんなに仲睦まじかった彼氏とは別れ、「気色悪い」とまで言い捨てていたり、就活や卒論で鬱を拗らせていたりとあの頃の綺麗な思い出とは随分変わってしまっていた。彼女は卒論への怨嗟を込めたメッセージを残してまたしても音沙汰が途絶えてしまった。
今振り返ると小っ恥ずかしくて仕方がないくらい些細なことでドキドキしたり心を揺れ動かされていてアホみたいだったが、今思うと彼女はサークルでの青春の象徴のようだった気もする。楽しいことや初めての出来事がいっぱいあったし、自分を認められる場でもあった、そんなサークルの象徴。しかしサークルとは違うのは、自主的に辞めたサークルとは違って関係が自然消滅し、友達ですらいられなかった無念や、見ない内に変わり果てていた悲哀があったことだろう。
もう少しどうにかならなかったのだろうか、あるいは今からでもどうにかできるのだろうかという思いはしこりとなり、いつまでも心の奥底から離れない。
今は個人的に忙しいし、また新たに恋人も出来たのでしこりに目を向けることもほとんどないが、何にも没頭していない瞬間や、過去を懐かしむ瞬間にふと思い返してしまうことがある。しこりが解消されるまではもう少し時間がかかるだろう。
正直今更連絡をしてもなんとなく返ってこない気がするし、実際に会うのは尚更不可能に近いと思う。言うなれば会うことないリストの一員である。しかし心にほんの数%でも「本当に終わった人間関係なのか?」という疑念がある限り割り切れないものがある。
果たして私は人生でもう一度彼女と関わる機会はあるのだろうか?それとも結局思い出のまま終わるのだろうか?
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